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営業の仕事では、最初から何でもできる人はほとんどいません。
話すことが苦手な人もいれば、商品の知識を覚えるのに時間がかかる人もいます。失敗を恐れて、なかなか行動に移せない人もいます。
しかし、今できないことだけを見て、「この人は営業に向いていない」と決めつけてしまったら、その人が持っている可能性まで消してしまいます。
私は八王子支店長として部下を指導していたとき、目の前の欠点だけで人を判断しないようにしていました。
大切にしていたのは、
「この人は、どこなら力を発揮できるのか」
という視点です。

欠点は目につきやすい
人を指導する立場になると、部下のできていないところが目につくようになります。
報告が遅い。
話が分かりにくい。
行動量が少ない。
お客様への対応がぎこちない。
数字がなかなか上がらない。
管理する側には責任がありますから、問題を見つけて改善させることは必要です。
しかし、できていないことばかりを指摘され続けると、人は次第に自信を失います。
「また怒られるのではないか」
「自分はこの仕事に向いていないのではないか」
そう考えるようになると、本来できることまでできなくなってしまいます。
欠点を指摘するだけでは、人は育ちません。
本人が持っている長所や可能性を見つけ、その力を仕事の中で使えるようにすることが、上司の役割だと私は考えていました。
営業にはさまざまな強みがある
営業成績が良い人というと、話がうまく、積極的で、押しが強い人を想像するかもしれません。
しかし、実際の営業現場では、それだけが強みではありません。
お客様の話を最後まで聞ける人。
約束を忘れず、きちんと守れる人。
細かいことに気づける人。
分からないことを正直に確認できる人。
派手さはなくても、毎日決めたことを続けられる人。
こうした力も、営業にとって大切な強みです。
話すことがあまり得意ではなくても、お客様の話を丁寧に聞ける人は信頼されます。
行動が速くなくても、確認を怠らず、間違いの少ない人は安心して仕事を任せられます。
すぐに成果が出なくても、毎日努力を続けられる人は、ある時から大きく伸びることがあります。
人の強みは、全員同じ形ではありません。
だからこそ、上司が一つの理想像を押しつけるのではなく、その人に合った成長の仕方を一緒に考える必要があります。
自分と同じ営業方法を押しつけない
私自身、営業未経験からこの仕事を始め、入社3年目にはトップセールスになることができました。
その後、支店長や役員として部下を指導する立場になりましたが、自分が成功した方法を、そのまま全員にやらせればよいとは考えていませんでした。
性格も違えば、経験も違います。
お客様との距離の縮め方も、人によって違います。
自分と同じ話し方ができないからといって、その人に営業力がないわけではありません。
私が意識していたのは、自分のやり方を押しつけることではなく、部下自身の良さを生かせる方法を探すことでした。
例えば、話すことが得意な人には、その力を生かして新しいお客様への対応を任せる。
丁寧で慎重な人には、既存のお客様への継続的なフォローを任せる。
数字や情報の整理が得意な人には、営業活動を支える資料づくりや進捗管理でも力を発揮してもらう。
全員を同じ型にはめるよりも、それぞれの強みを組み合わせたほうが、組織全体として大きな力になります。

「できない理由」を一緒に考える
部下が仕事をできないとき、本人の努力不足だけが原因とは限りません。
仕事のやり方が分からないのかもしれません。
指示の内容が曖昧なのかもしれません。
失敗したときに強く責められた経験があり、動くことが怖くなっているのかもしれません。
そもそも、その仕事が本人の特性に合っていない可能性もあります。
そのため私は、結果だけを見て叱るのではなく、
「どこで止まっているのか」
「何があれば動けるのか」
を考えるようにしていました。
仕事ができない人と決めつけるのは簡単です。
しかし、できない原因を整理し、本人が動ける環境を整えることは、上司にしかできない仕事です。
小さな成功体験が人を変える
人が成長するためには、注意や反省だけでなく、「自分にもできた」という実感が必要です。
最初から大きな成果を求めるのではなく、まずは達成できそうな目標を設定します。
お客様に一本電話をかける。
約束した時間までに報告する。
一日の行動を記録する。
分からないことをそのままにせず、質問する。
こうした小さな行動でも、できたことをきちんと認めることが大切です。
小さな成功を積み重ねると、本人の表情や行動が少しずつ変わっていきます。
受け身だった人が、自分から相談するようになる。
失敗を恐れていた人が、もう一度挑戦するようになる。
自信がなかった人が、後輩に仕事を教えるようになる。
人が成長するきっかけは、大きな言葉や特別な研修だけではありません。
日々の仕事の中で、「自分は役に立てた」と感じられる経験をつくることです。
厳しさと否定は違う
部下を育てるためには、ときには厳しいことを伝えなければなりません。
お客様との約束を守らなかったとき。
同じミスを何度も繰り返したとき。
周囲に迷惑をかけても報告しなかったとき。
こうした場合に、何も言わずに済ませることは本人のためにもなりません。
ただし、注意するべきなのは行動であって、その人の人格ではありません。
「この対応は直さなければならない」と伝えることと、
「あなたは駄目な人間だ」と否定することは、まったく違います。
改善すべき点は明確に伝える。
一方で、本人の存在やこれまでの努力まで否定しない。
この線引きは、人を指導するうえで非常に重要だと思います。

部下の成長は上司一人の成果ではない
八王子支店では、約20名の部下と一緒に仕事をしていました。
支店が評価されたことや成果を上げられたことは、支店長である私一人の力ではありません。
一人ひとりが自分の役割を果たし、互いに助け合った結果です。
上司の仕事は、自分が一番目立つことではありません。
部下が安心して働き、それぞれの力を発揮できる環境をつくることです。
部下が成果を上げたときに、自分の指導のおかげだと考えるのではなく、本人の努力をきちんと認める。
そして、うまくいかないときには、本人だけを責めず、自分の伝え方や仕事の任せ方も振り返る。
その姿勢がなければ、人から信頼される上司にはなれないと思います。
今、仕事を探している人にも伝えたいこと
年齢や障害、ブランクなどによって、仕事を探している段階で自信を失ってしまう人もいると思います。
できないことばかりを聞かれたり、経歴の空白だけを見られたりすると、自分にはもう価値がないように感じることがあります。
しかし、人の価値は、現在できないことだけで決まるものではありません。
長年の仕事で身につけた経験。
人との約束を守ってきた姿勢。
困難な状況でも生活を続けてきた力。
新しいことを学ぼうとする気持ち。
そうしたものも、その人が持つ大切な力です。
企業や上司が欠点だけを見るのではなく、その人が持っている力を見つけ、働ける形を一緒に考えることができれば、まだ活躍できる人は大勢いるはずです。

まとめ
部下を育てるときに大切なのは、できていないところを探して責めることではありません。
その人が持っている強みを見つけ、仕事の中で生かせるようにすることです。
もちろん、改善すべき点を伝える厳しさは必要です。
しかし、その人自身を否定してしまえば、成長する力まで失わせてしまいます。
人は、自分を信じてくれる人がいるとき、もう一度挑戦することができます。
上司の役割とは、完成された人材を探すことではありません。
目の前にいる人の可能性を見つけ、その人が自分の力で成長できる環境をつくることです。
私はこれからも、人を見るときには欠点だけではなく、
「この人は、どこなら力を発揮できるのか」
という視点を大切にしていきたいと思います。



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