はじめに.
沖縄県北部地区の経済的背景と課題
その1 沖縄県北部地区の経済的背景
沖縄県北部地区(名護市、本部町、金武町、国頭村、大宜味村、東村、今帰仁村、恩納村、宜野座村、伊江村、伊平屋村、伊是名村の12市町村)は、豊かな自然環境と観光資源を有する一方で、経済的には他地域と比べて課題を抱えています。
a産業構造と地域資源
北部地域は観光・リゾート産業の発展が期待されており、やんばるの森の世界自然遺産登録など、自然環境を活かした観光振興が進められています。農林水産業や地場の製造業(ビール、セメント、精糖等)も地域経済を支える重要な産業です。
しかし、産業集積度は低く、戦略的な産業集積の構築が求められています。
b所得・雇用状況
北部地域の一人当たり市町村民所得は県内他地域と比較して最も低く、過疎地域が多く存在します。
完全失業率も中部圏域に次いで高く、雇用情勢は厳しい状況が続いています。
これを受けて、雇用機会の創出や定住条件の整備が重要な再作課題となっています。
c振興事業と予算措置
平成12年度から北部振興事業が実施され、三号振興による雇用機会の創出や定住条件の整備を目的とした投資が続いています。
令和6年度の北部振興事業予算は70,7億円(非公共事業44,5億円、公共事業26,2億円)で、特別な補助率が適用されています。
これまでの事業により約2,000人の雇用創出など一定の効果が見られますが、依然として地域の自立的発展には課題が残っています。
その2 主な課題
a低所得・雇用の不安定さ
一人当たり所得が低く、完全失業率も高いため、安定した雇用の創出が急務です。
正規労働者の割合も県平均よりやや低い傾向があります。
b人口減少と過疎化
過疎地域が多く、人口の流出や高齢化が進行しており、若者や子育て世代が定住できる魅力的な生活環境の整備が求められています。
c産業多角化の遅れ
既存産業への依存度が高く、観光業や農林水産業の振興に加え、情報通信関連産業や新産業の集積が課題です。
商業分野では中心市街地の空洞化が進行し、商店街の再活性化や都市的機能の充実も重要です。
d交通・生活基盤の整備
生活環境やインフラ整備も遅れがちであり、基盤整備による定住条件の向上が必要です。
今後の展望
やんばるの森の世界自然遺産登録など、自然資源を活かした観光振興の好機を活かしつつ、産業の多角化と雇用創出、生活環境の整備を進めることが北部地域の持続的発展の鍵となります。
沖縄県北部地区経済復興の基本方針

地域資源を活かした新たな産業戦略と、若者、子育て世代が住み続けられる社会基盤の構築が今後の大きな課題です。沖縄県北部地域の経済復興は、定住人口の増加と産業振興を両輪として、地域の自然環境と資源を最大限に活用しながら持続可能な発展を目指す包括的な戦略である。平成12年度から開始された北部振興事業は、「15万人の圏域人口創出」を目標に掲げ、雇用機会の創出と魅力ある生活環境の整備を通じて、人口の社会的流出に歯止めをかけることを最優先課題としている。この取り組みは、沖縄本島の一体的な発展を図る上で北部地域が果たす重要な役割を認識し、地域特性を活かした着実な振興策を推進するものである。
人口問題と定住促進戦略 人口流出の課題認識と対応方針
沖縄県北部地域における最も深刻な課題は、持続的な人口の社会的流出である。この問題への対処は、経済復興戦略の根幹をなす要素として位置付けられている。人口減少は地域経済の縮小を招き、さらなる雇用機会の減少という負のスパイラルを生み出すため、まず第一に人口流出の傾向に歯止めをかけることが急務とされており、これは単なる雇用創出を超えて、地域の持続可能性そのものに関わる重要な政策目標となっている。
定住人口増加に向けた多角的アプローチ
定住人口の増加戦略は、地域内の若者の流出防止と地域外からの人材誘致という二つの軸で構成されている。地域の若者の定住促進については、魅力ある雇用機会の創出とともに、教育機会の充実や生活インフラの整備が不可欠である。一方、企業進出等を通じた地域外人材の定着促進は、新たな技術や知識の導入、地域経済の多様化に寄与する重要な要素として期待されている。このような多角的なアプローチにより、北部地域の人口基盤を強化し、持続的な地域発展の土台を築くことが目標とされている。
産業振興の基本戦略 地域資源活用型産業の発展
北部地域の産業振興は、豊かな自然環境と地域固有の資源を基盤とした「地域資源型」産業の発展を中核に捉えている。この戦略は地域の比較優位を活かしながら、外部環境の変化に対応できる競争力のある産業構造の構築を目指している。自然環境への配慮を前提としつつ、地域資源を積極的に活用することで、他地域との差別化を図り、持続的な経済発展を実現することが基本方針となっている。
既存産業の強化と新規産業の育成
北部地域には、ビール、セメント、精糖などの県を代表する企業が立地しており、これらの既存産業の更なる振興が重要な柱として位置付け等れている。産業の協業化推進や資金融資等の既存制度の積極的活用を通じて、これまで地域経済を支えてきた基幹産業の競争力強化を図ることが計画されている。同時に産業集積度の低い北部地域における戦略的な産業集積の構築についても調査研究が進められており、新たな産業クラスターの形成による地域経済の多様化と強化が目標とされている。
観光・リゾート産業の発展 自然環境を活かした観光資源の開発
沖縄県北部地域は、豊かな自然環境をはじめとする観光資源に恵まれており、観光・リゾート産業の一層の発展が強く期待されている。この分野の振興は地域の自然環境という比較優位を最大限に活用し、持続可能な観光開発を通じて地域経済の活性化を図る重要な戦略である。美しい海岸線、亜熱帯の森林、固有の生態系などの自然資源を保護しながら活用することで、他地域では体験できない独自の観光商品の開発が可能となる。
観光産業と地域経済の連携強化
観光・リゾート産業の発展は、単独の産業振興にとどまらず、地域全体の経済活性化に波及効果をもたらす重要な役割を担っている。リゾートホテル等の大量消費者の存在は地域の農林水産業にとって新たな市場機会を提供し、地産地消の推進と地域内経済循環の強化に寄与している。また、観光関連の産業・アミューズメント施設の集積促進により、地域住民にとって魅力ある都市的機能の向上が期待される。定住促進と観光振興の相乗効果を生み出すことが計画されている。
農林水産業の振興 亜熱帯農業の拠点産地形成
北部地域は農業粗生産額において他地域に比較して優位にあり、この優位性を活かした亜熱帯農業の拠点産地形成が重要な政策目標となっている。農業生産基盤の整備を推進し、農業の機械化と設備の近代化を図ることで生産性の向上と品質の安定化を実現することが計画されている。これらの基盤整備により、北部地域特有の気候条件を活かした高付加価値農産物の採算拡大が期待されている。
技術開発と市場競争力の強化
国際化の進展に伴う海外農林水産物との競合強化に対応するため。新規品目の開発や既存品目の改良を推進する技術開発体制の強化が不可欠である。試験研究の拡充・強化を通じて、市場ニーズに対応した品種改良や栽培技術の向上を図り、国際競争力のある農林水産業の確立を目指している。また、リゾートホテル等の大量消費者の立地を視野に入れた地域内流通体制の構築により、生産から消費まで一体的な地域経済システムの構築が推進される。
商工業の活性化戦略 中心市街地の再活性化
北部地域の商業分野では、消費者ニーズの多様化、流通構造の変化、モーターリゼーションの進展等により、従来の中心市街地の空洞化が進行している。この課題に対処するため、中心市街地の再活性化
と魅力ある商店街の再構築が重要な政策課題として位置付け等れている。地域住民にとっての魅力ある都市的機能の充実と、観光・リゾート振興との連携を図ることで、商業構造の多面的な価値向上が目指されている。
戦略的産業集積の構築
商工業の活性化においては、既存産業の振興とともに、戦略的な産業集積の構築が重要な課題となっている。産業集積度の低い北部地域において、効果的な産業クラスターの形成により、企業間の連携促進、技術革新の促進、コスト削減効果などの集積利益を実現することが計画されている。これにより、地域経済の多様化と競争力の強化を図り、持続可能な産業発展の基盤を構築することが目指されている。
実現に向けた取り組み方針と制度設計 北部振興基金の設立と財政措置
沖縄県北部地域の経済復興を実現するための重要な制度的基盤として、「北部振興基金」の設立が計画されている。この基金は、現行の北部産業振興基金を平成12年度中に拡充・発展させる形で実現される予定であり、地域の産業振興と経済活性化のための安定的な資金供給源として機能することが期待されている。また、当面実施可能な施策・事業を推進するため、平成12年度において特別の予算措置が講じられることとなっており、政府の北部振興に対する強い意思が示されている。
長期的展望に基づく継続的取組
北部振興事業は、平成12年度の開始以来、段階的な制度の発展を遂げている。平成12〜21年度の「沖縄北部特別振興対策事業費」、平成22〜23年度の「沖縄北部活性化特別振興対策事業費」、そして平成24年度以降の「沖縄北部連携促進特別ん振興対策事業費」として、継続的な取組が展開されている。このような長期的かつ継続的なアプローチにより、地域の構造的課題に対する根本的な解決策の実現と、その効果の定着が図られている。
結論
沖縄県北部地区の経済復興基本方針は、定住人口の増加と両輪とした包括的な地域発展戦略として体系化されている。この方針の核心は、人口の社会的流出に歯止めをかけながら、地域固有の自然環境と資源を活用した持続可能な産業構造の構築にある。観光・リゾート産業の発展、農林水産業の競争力強化、商工業の活性化という多面的なアプローチにより地域経済の多様化と安定化を図ることが計画されている。
特に重要なのは、これらの取組が単発的な施策ではなく20年以上に渡る継続的な事業として実施されていることである。
北部振興基金の設立や特別予算措置などの制度的基盤の整備とともに、地域の比較優位を活かした産業集積の構築により外部環境の変化に対応できる強靭な地域経済の確立がめざされている。今後は、これまでの取組の効果検証を踏まえながら、さらなる戦略の実効性を図ることで、沖縄県全体の均衡ある発展に寄与することが期待されている。
以下、基本方針の具体的な主要経済復興施策については次回記事に引き継ぎます。

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